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一、十三勢―――太極拳の原点


唐豪(とう ごう、1897年 - 1959年。中国の近代体育史家)
顧留馨(こ りゅうけい、1908年 - 1990年。中国の武術理論家)両先生の研究によると

太極拳は清代初期、陳家溝(太極拳の発祥地・河南省温県)の陳王廷(1600〜1680年)により創られたと言われていますが、実はこの結論は大きな誤りでした。
陳家溝の太極拳は明代初、陳家溝の初代目陳卜により山西省から陳家溝に持ってきたものです。
 この大変柔軟な太極拳は十三勢と言います。

明末、陳家溝の第九代目陳王廷はその名前を『太極拳養生功十三勢』としてこの十三勢を作り直しました。
凡そ三十年後の康煕年間に陳王廷はもう一度太極拳を作り直したのです。

従って、所謂、陳王廷『老年造拳』とは事実上、陳王廷の第二回目の太極拳を造る結果となりました。
第二回目の拳作りは今の陳式太極拳の源頭套路です!

今まで陳王廷は五つの太極拳を造ったと伝われていますがそれも誤りでした。

陳王廷が五つの拳術套路を作ったのは事実だと思いますが太極拳は一つしかありませんでした。
陳式太極拳の拳譜によると、五つの套路の中で第一路(頭套)だけは太極拳です。
その拳譜には
頭套拳、一名太極拳、一名十三勢とはっきりと書いてあります。

十三勢は套路動作名称から言うと楊式太極拳に似ているのです、勿論、運動の特徴も楊式太極拳に似ているのでしょう。
十三勢の最大な特徴としては套路の八卦布局とも言えるでしょう!

とは言え
陳式太極拳は直接に十三勢から演変してきているわけではありません。
明代には十三勢は太極拳十三勢に演変(変化)した…
陳式太極拳はこの太極拳十三勢の套路を基本にして砲錘の動作を取り入れて造られたものです。

楊禄禪の太極拳は陳家溝の太極拳十三勢だった。
禄禪の孫楊澄甫は1935年に太極拳十三勢を改造して今の楊式太極拳になりました。
所謂、八十五式楊式太極拳です。

結論から言うと

・十三勢は凡そ明代で作り直された。
・新しい太極拳の名前は太極拳十三勢と言う。
・陳王廷は太極拳十三勢を基本にして陳式太極拳を造った。
・第十四代目陳長興まで太極拳十三勢と陳式太極拳は並存していた。

楊禄禪は太極拳十三勢の最後の伝人とも言えるでしょう。
楊禄禪以後、陳家溝の太極拳十三勢は失伝してしまいました。

従って、
陳家溝では十三勢と太極拳十三勢の後に陳式太極拳が生まれたのです。
陳家溝の太極拳は時代によって套路の形が変わっていく…
楊禄禪の太極拳十三勢は殆ど変えることはなかった…

従って
太極拳の承伝は『老変少不変』、つまり、教える先生(老家或いは宗家)はよく套路を変えるが生徒(少家)は先生が居る限り、殆ど套路を変えないように練習する。

従って
陳式太極拳は太極拳の源頭ではない。
十三勢は太極拳の源頭である。

一言でいうと
陳王廷は陳式太極拳の創始者ですが太極拳の創始者ではありませんでした。
唐豪、顧留馨両先生の陳式太極拳は太極拳の原点そして楊禄禪の楊式太極拳は陳式太極拳から生まれたと言う結論は逆だったわけです。